2019.11.29特集バックナンバー
トンロー在住の小説家 ウティット・ヘーマムーン
タイ人小説家
ウティット・ヘーマムーンさんに、2019年日本で出版された新著『プラータナー憑依のポートレート』について伺いました。
Uthis Haemamool
1975年 サラブリー県生まれ。
2009年に長編小説『ラップレー、ケンコーイ』で東南アジア文学賞を受賞。2017年に『プラータナー憑依のポートレート』を発表。岡田利規の脚本・演出で舞台化された。日本では2019年6月に翻訳本を出版。
1975年 サラブリー県生まれ。
2009年に長編小説『ラップレー、ケンコーイ』で東南アジア文学賞を受賞。2017年に『プラータナー憑依のポートレート』を発表。岡田利規の脚本・演出で舞台化された。日本では2019年6月に翻訳本を出版。
―トンローに住んでどのくらいですか?
もう10年以上かな。以前はパタナカーンに住んでいました。―トンローが好きですか?
ええ。賑やかなのはメイン通りだけで、ソイ(編集部注:小道)に入れば静かな住宅地だし、ソイの中には素敵なお店があります。日本人の親父さんが10年20年やっているような日本料理屋とかね。古くて落ち着くし、タイ人も全くいない(笑)。そういうところで静かに身を隠しているのが好きです。スクンビット通りの特にトンローからアソークまではほかの地域とは少し違いますね。この辺りはメイン通りからソイに入ると穴だらけ。それらがすべて繋がっています。 長く住んでいれば、近道がたくさんあることを知っています。 これはこの場所の魅力だと思うし、本の執筆にも影響を及ぼしています。僕の本のプロット には、ディテールが細かく書かれています。それはこういった場所や物理的な状態からきているのかもしれません。この場所で生まれるさまざまなディテールや特徴が、作品を生み出すのに大事なのです。構造だけでは不十分で、そこに命やディテール、息吹を入れてあげることが必要です。
―2019年、日本で『プラータナー憑依のポートレート』が翻訳・出版されましたが、このテーマについて書こうと思ったきっかけは?
当初書きたかったのは、あるアーティストの40年の人生です。年の間に3回ものクーデターが起こりました。40年という時間は政治の歴史でいえば非常に短いかもしれませんが、一人の人間の人生で3回もクーデターが起こることがあるのか、と。それは私たちが今生きているこの制度がどこか異常だということだし、人の人生が異常な制度の中にあるということを反映しているのだと思います。どうしてクーデターが繰り返されるのでしょうか。一人のアーティストが成長する期間を、若い時から政治的な考え方が芽生え始める時、そしてアート作品の進歩なども含めて語りたかったのです。それらは全部繋がっています。また、性の話も多く含んでいますが、これは意図的に用いています。個人が求める愛や欲求を社会の愛や欲求の型に当てはめました。政治的には公衆の欲求ですね。性的な愛や欲求を「国」と「民衆」の間の関係を示すものとして使いました。愛し合う者の間にも、権力や抑圧、理解し合うための努力、駆け引きなど、さまざまな形の関係があります。これらの関係は共通するものですが、個人と公共という2つの視点に分けました。つまり個人的な愛と政治的支配制度への要求、その2つの視点を混ぜ合わせたのです。この国に起こった支配体制、それはさまざまな形を通して個人も支配するもので、そこに隠されている権力や意味に触れるようにしました。