2018.11.21特集バックナンバー
器と暮らす<後編>
上質な器が身近にあるタイの日常風景
チャトチャック・マーケットでチープな食器をまとめ買いしたり、ふと立ち寄った人気の雑貨店で存在感のある陶磁器をうっとり見入ったり。また、タイのキッチンをのぞけば、ノスタルジックな藍染付け皿に炒め物や野菜、プリッキーヌが盛られていたり……。タイの日常では、いたるところで素敵な食器と遭遇します。食都バンコクで、器は庶民の暮らしに欠かせない小道具のひとつなのです。タイの陶磁器の歴史を知る
5000年以上もの歴史を持つタイの陶磁器。ウドンタニー県バーンチアン村で発見された土器の破片は5600年も前、紀元前3600年頃のものだということがわかりました。その後、13世紀にスコータイ王朝が誕生すると、中国から磁器の技術が伝わり、サンカローク、セラドン、ベンジャロンなど、現在のタイを代表する陶磁器が次々と作られるようになります。タイ語で「ラーイ・クラーム(藍色模様)」と呼ばれるブルー&ホワイトも、中国から伝わりました。最初は花や鳥、魚などをモチーフにした模様が使われていましたが、現在ではパイナップル柄が定番となり世界中で親しまれています。バンコクでお気に入りの器と会う
最近はギフトショーや身近なファーマーズマーケットでも“器”が人気。タイの美術学校や有名大学を卒業した学生たちが独自で工房を開き、自らがデザイン・製作した器を販売しています。小さな窯で焼かれたお皿やカップたちはきわめて少量生産でクラフト感満点!「これはどうやって作ったの?」「どんな料理に合うかしら」など、お客さんが直接作家たちに質問し、売る側も買う側もとても楽しそう。陶芸は、若者にとってもやりがいのある仕事なのかも知れません。そして、世界でひとつだけのこだわりマグで飲むコーヒーはきっと美味しいはず!タイ皇室ご用達 ベンジャロンネタ帖
買う前に知っておきたいベンジャロン焼きのあれこれをご紹介。
知れば知るほど好きになるかも?
ベンジャロンの歴史
ベンジャロンは、スコータイ王朝時代からアユタヤ王朝に移り変わる 16 世紀末から 17 世紀にかけて中国より伝えられました。当初は職人を中国で修行させ、作った製品をタイ王室ご用達の食器として輸入していたのです。まだ陶磁の技術が確立されていなかったヨーロッパにも広がり、ベンジャロン焼きの美しさは世界中を魅了していきます。その後、裕福な貴族や商人の生活にも浸透し、タイを代表する高級磁器として多くの人に愛されるようになりました。ベンジャロンとは、古代サンスクリット語で数字の5を表す「ベンジャ」と色という「ロン(グ)」を語源とし「五色」を意味します。五色とは“多色”の意味を持ち、ベンジャロン焼きにはさまざまな色が施されています。ちなみに、現在の王宮やワット・アルンの仏塔に見られる陶磁の装飾は当時中国から輸入されたもの。持ち歩いた際に割れてしまったベンジャロンを使用しているそうですよ。五色の輝きを放つ 高価な陶磁器
日本の有田焼(伊万里)・九谷焼と同じく、素焼きの後に釉薬(ゆうやく)をかけて高温で焼き、上絵具で模様を色付けしてから再度低温で焼いて色を定着させるベンジャロン。タイを代表する磁器にはセラドンやブルー&ホワイトなどがありますが緻密な絵付けと金彩のテクニックはベンジャロンのみが持つ特徴。その豪華さと華やかさが、タイ伝統の陶磁器と言われる理由です。手描きで一つひとつに施されるタイ伝統の柄
ベンジャロンの模様はすべてタイの伝統柄。職人の技術によって一つひとつ手描きされるものを指しますが、市場にはプリントや転写された器も出回っています。手描きのものは高度なテクニックと長い時間が必要で、高価な価格で販売されます。真っ白い磁器に伝統の柄を描いて色を付け、まばゆい光を放つ金銀の縁取りを加える行程は、熟練の職人のみが行える作業なのです。◆◆゛マイ・ベンジャロン゛をオーダーする の巻◆◆
タイの伝統陶芸の最高峰「ベンジャロン焼き」の工房を訪ねて
バンコクから車で1時間ちょっとの場所に位置するサムットソンクラーム県・アンパワーへ。ここに、あの美しきベンジャロン焼きの有名工房があります。数ある工房の中でも、クオリティの高さに定評がありバンコクからわざわざ出かけて自分だけのベンジャロンをオーダーする人多数!今回は、人気No.1と言われるその「ピンスワン・ベンジャロン」にお邪魔しました。
◆ 30人のベテランスタッフが手作業でベンジャロン柄を彩る
広々とした敷地に建つこの工房は、今から35年も前に設立されました。制作室では30人近い技術者が器片手に真剣な表情で作業をしています。「スタッフはこの道10年以上のベテラン揃いです。タイ政府からのオーダーも多く、各国の要人を招いての会食などに使われる器の多くをこちらの工房で作っているのですよ」現在「ピンスワン・ベンジャロン」の責任者でもある二代目のサランヤさんは言います。さらに、「金やプラチナの含有量が高く、長く使っても取れにくいのが特徴です」とクオリティにも自信があるそうです。
◆ 下描きなしで白い磁器肌に繊細な柄を丁寧に描く
さっそくタイ王室御用達のベンジャロン焼きの工程を見せていただくことに……。ここでの作業はかなり細分化されています。下絵を描くスタッフ、色付けをする職人、仕上げを行う職人。金やプラチナで縁取りをするのは、とりわけ高い技術を持ったスタッフなのだとか。まずは、ロイヤルボーンチャイナの磁器に茶色や赤、黒などの絵具で下絵を描きます。細い筆で、直接真っ白な磁器肌に緻密な草花の模様を描くのはとても難しそう。図案などはなく、下書きも一切しません。誰もが迷うことはなく正確に、丁寧に図柄を仕上げていきます。これぞまさにこの道10年のベテランのみがなせるワザです。
◆ APEC首脳会談の晩餐会に使われた ピンスワンのベンジャロン ◆
この工房の創業者はウィラット・ピンスワンさん、現在89歳。若いころは学校の教師、ヤシの木や砂糖の販売、古物商などさまざまな職に就いたそうです。古物商だった時にベンジャロンの修復に携わった経験があり、その技術が評判となり、本格的にベンジャロンの勉強を始めたそうです。50代でバンコクにある「クルエイナムタイ陶芸研究所」で修行し、その後、故郷のアンパワーに戻ってこの工房を立ち上げました。地元の村人に手法を伝え、優秀な職人を育てると、工房は徐々に軌道に乗り、タイ王室からも依頼がくるほどになりました。2003年にタイで APEC 首脳会議が開催された時には、公式会食の器にはウィラットさんの作品が使用されました。また、参加21カ国の各首脳の名前と誕生花が描かれたピンスワン・ベンジャロンのお皿が贈呈されたそうです。◆ 半年待ちでも作りたい!私だけのカスタマイズ・ベンジャロン! ◆
制作現場に併設された展示サロンには、工房で作られた数々の作品が紹介されています。ここでサンプルを見ながら気に入った形や色、柄を決めてベンジャロンをオーダーするというシステム。一部購入できるものもありますが、醍醐味はやはり、自分だけのカスタマイズ・ベンジャロンを作ってもらうことではないでしょうか。「サンプルにないものでも、色や柄を指定できますよ。どんな細かいオーダーにも対応しています」(サランヤさん)。出来上がるのは3ヶ月から半年後ですが、それでもベンジャロンを作ってもらおうと多くの人がこの工房を訪れます。自分の目で見て、話を聴き、実際に触れているうちに、すっかりベンジャロンの虜!出来上がりは引き取りと配達があり、バンコクの自宅までお届けサービスも行っているそうです。出来上がるまでの時間もまた楽しみのひとつですね。
ピンスワン・ベンジャロン
TEL:034-751-322
住所:32/1 Moo 7,Babgchang, Amphawa,Samutsongkran
営業時間:8:30-17:00
Email:Sun_ya_sweet@hotmail.com
◆定期的にスクンビットに出張サービスあり、詳細は電話またはメール(英語可)でお問合せを。
YARNNAKARN ART & CRAFT STUDIO
アンティーク風のぬくもりに満ちた白い器たち
ホワイトプレートに浮かび上がる可憐な花のモチーフ、小鳥や貝殻の形のデコレーション、花瓶や彫刻、フォトフレームなど、独特な感性による白いセラミック作品が今、にわかに注目を集めています。デザイナーのカリンさんは、チュラロンコン大学卒業後、イギリスでファインアートを学び、帰国後に自身のスタジオ「YARNNAKARN」を立ち上げました。現在はタイ国内だけでなく、欧米や日本からのオーダーもあるほどの人気ぶり。作品はすべてハンドメイドで、お皿やカップの一つひとつに違った表情があり、趣きがあります。「生活の中にある”もの”たちは長く使い込むうちに味わい深くなっていきますよね。僕は、真新しくて完璧なものよりも、暮らしの中で自然に形や色が変化して、少し歪んだり欠けたりしているくらいのものの方が好きなんです。だから自分の作品も、角が取れてぼってりと丸みを帯びたような、時間とともに変わっていくぬくもりを表現したいと考えています」。クレイを手作業で成形してから800℃の窯で素焼きにし、釉薬をかけてさらに焼いてツヤを出す。その後、しっかりと乾燥させるのが一連の作業工程。量産はできず、一点を仕上げるまでに3~4日かかるそう。じっくり時間をかけて出来上がった器は、ギフトショーやデパートでも購入できます。
YARNNAKARN ART & CRAFT STUDIO
TEL:02-678-3877,081-621-0191
住所:2/4 Soi Nangllnchee 4,Nangllchee Rd.
Email:Karin@yarnnakarn.com
※お問合せ・購入はFB,メール,電話(タイ語、英語)で。商品はエムクオーティエ、サイアムパラゴンでも扱っています。
YARNNAKARN ART & CRAFT STUDIOのHPはこちらから
Ce’Halo
水彩画のような軽快な色彩がハッピーな気分を運ぶ
シラパコン大学で陶芸デザインを学んだ2人の女性アーティストによるセラミックスタジオ「Ce’Halo」。水彩画のような軽やかなカラー使いとナチュラルなモチーフによるプレート、マグカップ、スプーンなどを製作しています。「ほとんどがオーダーメイドです。フェイスブックなどから注文が入り、お客さんの希望に応じて色やデザインを考えていきます。プレートに顔を描いたり、名前入りの器にも人気がありますよ。私たちのセラミック作りはまだまだ始まったばかり。今後はもっと新しいデザインや大作にも挑戦する予定です」。透明感のある色彩使い、さりげないメッセージプレートやスプーンは、贈り物にもよさそうです。
Ce’Halo
Email:cehalo55@gmail.com
※お問合せ・購入は直接line、メール、FBからご連絡を(タイ語、英語)
バイヤーも買いにくる “プロご用達” ショップ
安くてかわいいキッチン雑貨からアンティークまで「コレ欲しい!」がきっと見つかる!Joy & Benz Ceramics
店内いっぱいに積まれた大皿、小皿、グラスやメラミン食器etc.カトラリーやプロが使う調理器具など、さまざまなキッチングッズが格安プライスで買えるお店。日本でも人気のガラスジャグや、タイ工場で生産している有名ブランドのお皿もあるのでお見逃しなく!チャトチャックのJJモール隣りにあります。Joy & Benz Ceramics
TEL:091-565-4266
住所:Car Park JJ Mall Kamphaengphet 2 Rd,Jatujak
営業時間:9:00-18:00 定休日:月
アクセス:MRTカンペンペット駅降りてすぐ
GEMLINE
スクンビット通り・ソイ20にある「ジェムライン」は、39年前に宝石店として開業。今、こちらで作っている白蝶貝のカトラリーや箸置き、コースターが密かな人気。他ではなかなか手に入らない貴重なタイ産のシェルを使い、熟練の職人が丁寧に手作りする製品たちはどれも目を見張る美しさ。今では職人自体が少なくなったというその技術の高さは素晴らしく、タイのお土産としても人気です。GEMLINE
TEL:02-258-1505,02-258-1999
住所:2/2 Soi 20,Sukhumvit Rd.
営業時間:10:00-20:00 定休日:日
アクセス:BTSアソークから徒歩7分
Simple to Simple
丈夫で使いやすいオークウッドやチークウッドを使ったボウルやお皿、カッティングボードなどのキッチンウェアをリーズナブルな価格で提供しています。木製ならではのシンプルでナチュラルな雰囲気が魅力。こちらでは、気に入ったデザインをカスタマイズしてくれたり“名入り”サービスも行っているのでぜひ訪ねてみてください。Simple to Simple
TEL:062-262-4424,062-664-4265
住所:1575/38 Phahonyotin Rd.,Samsennai,Phayathai
営業時間:10:00-19:00 定休日:無休
アクセス:BTSサパーン・クワーイ駅から徒歩すぐ
いかがでしょうか。お気に入りの1枚を探しに行ってみませんか?
器と暮らす<前編>はこちらから