2019.06.20ワキサカコウジ
ワキサカコウジのなりゆき観光コラム「こんつわバンコック」 〜スマホを落とす〜
皆さまは旅行中に物をなくした経験があるでしょうか。僕はなぜか海外にいる時によくそういう事が起きるのです。ここバンコクでも、小銭入れ、デジカメ、空港で借りたwi-fi機器などを紛失してきました。そして先日もまた懲りずに、ある物をなくし……そうになったお話でございます。
その日の夕方のこと。王宮周辺からホテルに戻るため、久しぶりにトゥクトゥクに乗りました。街は日も暮れ始め、気温も風も心地いい。なんとなく初めてバンコクに来た頃を思い出し、たまには写真でも撮るか……ふとそんな気になったのです。スマホを取り出し、カメラを起動して、いざシャッター……と思った瞬間、車体が思いっきり跳ねてお尻が浮いたよね。ビヨーンつって。あはは。危ないなぁ、道に凹凸でもあったのかしら。時速80キロ(推定)で転げ落ちるかと思ったよ。ま、これもトゥクトゥクの醍醐味。
さぁ気を取り直して写真を……スマホで……スマホが……ってスマホないじゃん!
さっきの衝撃で手から落ちた?ヒェ〜ッ!あぁ、僕の大事なスマホちゃん。近くにいる時は気付かなかったよ、離れるのがこんなにつらいなんて。……だとか言ってる場合ではなく、早く拾いに戻らなければ。だって海外でスマホをなくすのは、裸にハチミツ塗って暗い森に入るくらい不安だもの。
さっきまでおとなしく、なんなら微笑すら浮かべていたメガネ男が後ろで突然錯乱し始めたので、運転手さんが振り返りました。そこでスマホが落ちた事を身振り手振りで伝えたのです。彼はすぐに理解してくれ、トゥクトゥクを止めると車体を急旋回。まるで自分の事のように急いで戻ってくれたのです。さっきから思いっきり車線を逆走しているけれど、それは気のせいだと思う事にするね。
そして、この辺りか?という場所でスマホの大捜索。なんと運転手さんも一緒に探してくれたのです。しかし、しばらく探しても見つからず。夜の闇も濃くなって諦めかけた頃、突然彼が道路の端を指差しました。まるでモーゼのように。その先にはなんと、海……ではなく画面が割れた状態のスマホが転がっているではありませんか!急いで電源を入れてみると、なんとか機能はする様子。
あぁ優しきタイ人よ、おかげで助かりました。ついさっきまで、どうせ観光地のトゥクトゥクだから、ぼったくるんだろチミ、などと思っていた僕を許したまえ。
ワキサカコウジ 武蔵野美術大学卒業後、イラストレーターとなり、各種媒体にて活躍。「週刊文春」「MEN’S CLUB」といった雑誌での挿絵連載の他に、近年では雑誌「an・an」でコラム連載を持つなど、執筆活動も行う。鳥を見るのが好き。 ワキサカコウジのブログはこちら